Sの日記(ホラー)第一章3

「うん、 それで?」

「右から3冊目だって聞いた」

右から3冊目は童話だ。

一番端っこから日本の童話全集が並んでいる。

全部で22巻まであるシリーズ本だ。

1作目から「桃太郎」2作目「一寸法師」と続き、 3冊目は『舌切り雀』だった。

2人でそのタイトルを口にした。

舌切り雀……。

微妙な物語だ。

「舌切り雀って、 確か、 意地悪なおばあさんが、 スズメの舌を切っちゃう話だよね。 ちょっと怖いと言ったら怖いよね」

ルカは言った。

私は、 それには答えずに、 『舌切り雀』の本を手にとって、 開いてみた。 文章に少しだけ目を通す。

何の変哲も無い、 子供の頃に聞いたストーリーだった。

「これが、 満月の夜になると、 『ショウコの日記』に変わるってこと?」

私は、 『舌切り雀』の本を棚に戻すと、 ルカに言った。

「って、 ことかな……」

ルカは首を捻りながら言った。

ルカ自身もあまりピンと来ていないようだ。 私は溜息をついた。

「これで気が済んだ?」

ばかばかしい。

んな事、 あるわけないじゃない。

あー、 廊下を走ってきて疲れちゃった!

私は、 ルカに目もくれずに、 歩き出した。

「あ、 ちょっとミコ、 待ってよ」

ルカは、 慌てて私の後を追いかけてきた。

そして、 纏わりつくように話しかけてくる。

「きっとそうだよ。 あれが『ショウコの日記』に変わるんだよ」

その言葉を聞いて、 私は足を止めた。

「はあ? ルカ、 頭だいじょうぶ? あのね……、 わかった。 じゃ、 100歩譲って、 あんたの言う通りだとしよう。 でも、 それが私たちと何の関係があるの? 『舌切り雀』が『ショウコの日記』に変わったって、 そんなこと放っとけばいい話じゃん。 私たちには何の関係もないじゃん。 ちがう?」

ルカは私の勢いに圧倒されて、 言葉を失った。

そして、 また私は教室へ向かう。

「そうだけど、 でも、 何だかちょっとおもしろそうじゃん」

「ああ、 そう。 じゃ1人でいくらでも楽しんで。 私にはそんな暇はないの」

私は歩きながら、 冷たく言い放った。

「ねえ、 待ってよ。 じゃあさ、 5年前にいなくなった女の子は、 どう説明するのよ」

私を追いかけながら、 なおも話しかけてくる。

「知らないわよ。 家出でもしたんじゃないの? 死体が見つかったとかじゃないんでしょ?」

「そうだけど……」

「だったら、 何でいなくなったか分からないじゃない。 その子が『ショウコの日記』を見たかどうかも」

ルカはしつこい。

こんな話のどこがおもしろいんだろう。

そう思いながらも、 この話にのめり込んでいったのは、 私の方だった。

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