Sの日記(ホラー)第二章

その日の帰り道、 私もルカの言っていることが気になっていた。

そうだ、 パパに聞いてみよう。

パパ哲郎てつろうもこの街の出身で、 同じ東台中学校の卒業生だ。

昔からある話なら、 パパも知っているかも知れない。

それにパパが否定すれば、 「そんな話はウソだよ」って、 ルカに言える。

あのくだらない話を、 今後も聞かされると思うとウンザリだ。

夕食の後で、 パパの書斎に入っていった。

ご飯時にママや妹がいる中では 聞きづらいことだった。

ママの美幸みゆきに笑われそうだったし、 妹の美紗緒みさおに馬鹿にされるのも屈辱的だった。

妹も、 私と同じ東台中学校に通う一年生だ。

私は一応、 ノックをして、 パパの書斎のドアを開けた。

パパは夕食後、 書斎に籠もって、 仕事をすることがある。

私がドアを開けると、 パパがパソコンの画面に目を向けて、 右手でマウスを操っていた。

「ねえ、 パパ」

私は、 声をかける。

「うん?」

画面を見ながら、 パパは生返事をした。

「ちょっと、 いい?」

いくら優しいパパでも、 これから話そうとする事は、 ちょっと聞きにくい事だったので、 私も、 どう切り出そうか戸惑った。

そうして、 口ごもっていると、 パパが私を見た。

「どうした? 下でドラマを観なくていいのか?」

パパがそう言うのも、 無理はない。

夕食後のゴールデンタイムは、 ママや美紗緒たちと、 いつもテレビにかじりついているからだ。

「……うん、 たまにはパパと話したいな、 と思って」

私がそう言うと、 パパはにっこりと笑った。

「どうしたんだ、 珍しいな。 パパに何か相談事か?」

私は曖昧に笑みを浮かべた。

「うん、 あのね、 今日、 友達と話しててね。 学校に纏わる怖い話をしてたの。 パパも確かトーチュウの卒業生だったよね」

トーチュウというのは、 東台中学校の略語だ。

「東」だからトーという。 地元ではみんな、 トーチュウトーチュウという。

「うん、 そうだよ。 パパは美琴の先輩だな」

「でね、 パパの時も、 そういう話あったのかな? って思って」

「ああ、 そういうことか。 あったよ」

そう言いながら、 パパは頷いた。

「ホントに? どんなの? 教えて」

「パパの時はね、 理科室の人体模型が動き出すっていう噂が流れてね、 クラスの仲間5人で、 夜中に見に行ったことがあったんだ」

話しながら腕組みをするパパ。

「へえ、 そうなの? それでそれで?」

「あの頃は、 旧校舎の3階に理科室があってね。 今は新校舎に建て替えられたみたいだけど、 旧校舎は夜になると不気味でね。 結局、 怖くて、 誰も理科室まで行けなかったんだ」

パパはそう言って、 大笑いした。

「ほら、 米屋のカメキチっているだろ。 あいつが一番に逃げ出したんだ」

近所の亀田精米店という、 お米屋さんの長男の事だ。

亀田幸一といって、 パパと仲良しで、 私もよく知っているおもしろいおじさんだ。

パパは当時の事を思い出したようで、 笑いが止まらないらしい。

頭を抱えて、 声を押し殺すようにして笑っている。

本当に可笑しい時のパパの笑い方だ。 私も笑った。

「美琴の話はどんな話なんだ? トーチュウの怪談話なんだろ?」

笑いをこらえるようにして、 パパは聞いてきた。

「うん、 私が聞いたのはね、 学校の図書室に、 満月の夜になると、 Cブロック3番の書棚に、 日記が現れるんだって」

「ほう」

「ショウコの日記っていうらしいんだけど、 それを読んだ人はね、 生きて帰れないんだって」

「へえ。 おもしろい話だな」

「パパは、 この話知ってる?」

「いや、 知らないな。 いつからそんな話があったんだろう」

「私もわかんないけど、 今日友達から聞いたの。 でね、 実際にいなくなった子がいるんだってよ」

私は得意げに話した。

「へえ、 なんだかリアルな話だな。 それ以上聞くと、 パパ夜中にトイレに行けなくなっちゃうよ」

「もう、 やだ、 パパったら」

私とパパは、 2人で大爆笑した。

パパは何も知らないようだった。

やっぱり。

パパが知らないんだから、 昔からある話じゃないし、 どこかから出てきたデマだ。

明日、 ルカに言ってやろう。 そんな話は迷信だって。

きっと小さな話に尾ひれがついて大袈裟になったのだろう。

翌朝、 学校へ向かう途中に、 ルカが話しかけてきた。

「ねえミコ、 今日の夜、 満月なんだって」

だから、 おはよう、 ぐらい言えよ。

「ええ? まだ言ってるの?」

「現れるかな? Sの日記」

「エス?」

「『ショウコの日記』だから、 Sだよ」

ああ、 頭文字を取ったのね。

勝手に略すな。

「知らないわよ」

ルカは興味を失くしている私に気遣ってか、 黙りこくった。

「ねえ、 ルカ」

しばらく歩いて、 私は声をかけた。 あまり無視ばかりしていると、 ルカが気の毒に思えた。

「うん?」

「あのね、 昨日その話をパパに聞いてみたんだ」

「そうなの?」

ルカはまた目を輝かせた。

「パパもトーチュウの卒業生だったからね」

「そうだったんだ。 それで? なんか言ってた?」

「べつに。 パパは知らないみたいだった、 そんな迷信」

私は「迷信」という所を、 強調して言った。

「ええ、 そうなの?」

「だから言ったでしょ。 そんな話はありえないって」

「そうなのかなぁ……」

ルカはまた、 黙りこくった。

私たち2人は、 まるでお通夜のような顔をして、 学校に歩いていった。

その日は、 学校でも、 私とルカはよそよそしく、 あまり会話をしなかった。

私は、 『Sの日記』の話をしたくなくて、 自然とルカを避けていた。

彼女もそんな私の心情を感じ取っているようで、 話しかけてこなかった。

お互いその日一日は、 他の子と絡んでいた。

でも、 私はそうしたことを後悔する羽目になるのだった。

翌朝、 ルカは消えた。

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