Sの日記(ホラー)第四章2

「適当に座って」

神野さんはそう言って、 ベッドに腰を下ろすように促した。

神野さんは自分の机のイスに座った。

私がベッドに座ると、 傍にオレンジジュースを置いてくれた。

「ありがとう」

「で? 話ってなに?」

やっと本題に入れる。

今の一連の神野さんの行動を見て、 より一層頼れると実感した。

「いなくなったルカの事なんだけど」

「ああ、 そうだよね。 心配だね」

「うん。 実はね、 二日前にルカからこんな話を聞いたんだ」

私はルカから聞いた『Sの日記』のことを、神野さんに説明した。

話を聞いているうちに、 神野さんの顔つきが変わってきた。

眼光が鋭くなってくる。

「これがその、 『舌切り雀』なの」

神野さんに現物を見せた。

神野さんはその本を手にとって、 ページを捲った。

「ね、 どう見ても普通の童話でしょ」

私は言った。

神野さんは無言で、 本に見入っている。

「この本……」

不意に神野さんは口を開いた。

「なに?」

「出版されたのは昭和だね。 昭和52年て書いてあるよ」

巻末を見ている。

昭和52年……。

今から何年前だ?

えっと……。

私はカバンからスマホを出して、 電卓アプリを開いた。

「えっと、 昭和が確か63年までだから……」

「38年前よ」

神野さんが言う。

は、 速い。

「38年……」

まだ、 15歳の私からすれば大昔だ。

神野さん、目の付け所が違うわ。

巻末を見て、 この本が出版された時期を知るなんて、 私には思いつかなかった。

「つまり、 その38年の間に、 トーチュウで何かがあったって事よ」

神野さんは人差し指を立てて言った。

「何かって?」

「その、 ショウコさんて人はもう死んでる人だと思う。 問題はどうしてショウコさんは亡くなったのか。 まずはそれを調べないと」

「うん、 そうだね」

私は分かったように返事をした。

でも、 言われてみればそうだ。

ショウコさんのことについては、 まだ何も解っていないのだ。

その人の事については、 私も興味がある。

神野さんはパソコンを立ち上げた。

「パソコンでわかるの?」

「わからないけど、 とにかく調べてみる」

パソコンが立ち上がると、 神野さんは検索サイトを開いて、
見出しに東台中学校、 しょうこ、 事件、 とキーワードを打ち込んで検索をかけた。
すぐにトーチュウに関する様々な項目が表示された。
マウスで下のほうにスクロールしてみる。
「ん?」
神野さんが何かを見つけた。
「これ、 気になるね」
神野さんの言葉に、 私もそこに注目した。
『東台中学校女生徒の自殺事件』
自殺……?
うちの学校で過去にそんな事があったの?
神野さんはそれをクリックした。
東台中学校で三年生の女生徒が自殺。 という見出しの記事が出た。
少し下のほうには、 新聞の切り抜き記事まで載っている。
私たちは、 その記事を読んだ。
『9月29日、 午後5時ごろ、 宮元正也(みやもと まさや)さん41歳の長女、 祥子(しょうこ)さん15歳が、 自宅の自室でうつ伏せに倒れているのを、 仕事から帰宅した、 母、 順子(じゅんこ)さんが発見した。
すぐに救急搬送されたが、 祥子さんは病院で死亡が確認された。 警察では、いじめも視野に 入れて捜査を進めている。 遺書は見つかっていないという』
その新聞は平成2年のものだった。
25年前だ。
「ヒットしたね。 自殺だったんだ」
私は言った。
「うん、 私もこの記事に間違いないと思う」
神野さんは確信した。
いじめによる自殺は、 よくニュースでも聞く事件だ。
まさか自分が通っている学校でも、 そんな事件が起きているとは夢にも思わなかった。
死にたくなるほどのいじめなのだから、 よほど酷い事をされていたのだろう。
25年前だから、 私はもちろん知らないし、 今の在校生もほとんどが知らない事だ。
教師なら覚えているかも知れないが、
その当時のトーチュウに勤めていた先生が、 今もいるかどうかは疑問だ。
仮にいたとしても、 この事件の事を聞いて、 すぐに答えてくれるかどうかは分からない。
報道やマスコミなどで、 当時は話題になったかも知れないが、
年月が経つにつれ、 風化され、 大人たちの心には、 すでに封印されている事件に違いないのだ。
「この人、 よっぽど強い恨みを持って死んでるよ。 きっと」