Sの日記(ホラー)最終章

二週間が過ぎた。

私は病院の精神病棟の一室に寝かされていた。事件後すぐに警察官が事情聴取にやってきた。

私は事件の事を何も覚えてないと言った。

「一時的な記憶障害だと思います」

精神科医が代わりに答えてくれた。

「無理もありません。妹さんが突然、包丁を持ち出して、両親をメッタ刺しにして惨殺したんです。この子はそれを目撃したんだと思います。正常でいろと言う方が無理です」

警察官はそれを聞いて、帰っていったらしかった。あの話を警察が信じるとは思えなかった。

ベッドの上に体を起こして、窓の外を眺めていると、三村先生がやってきた。

「気分はどう?」

私の傍に来ると、三村先生は声をかけてくれた。

「先生……」

「少しは落ち着いた?」

「はい、もう大丈夫です」

「そう、よかったわ」

三村先生は、私の顔を覗き込んだ。顔色を窺っているようだった。

「うん、少しは元気になったみたいね」

三村先生はにっこりと笑った。

「先生、訊いていいですか?」

私がそう言うと、三村先生は椅子に座った。

「私がどうして、あの場に来たかってことでしょ?」

「それもですけど、先生はいったい……?」

三村先生は、自分の膝に手を置いて、姿勢を正した。

「今日はそれを話しに来たの。もっと早く話そうと思ったけど、あなたの精神状態が心配で話せなかったのよ」

「どういう事なんですか? 先生は祥子さんを知っているんですか?」

「そうよ。これを見てちょうだい。あなたたちが見たかったのは、これでしょ」

そう言うと三村先生は、大きなバッグの中から、何かを取り出して、私の膝に置いてくれた。

卒業アルバムだった。

黒い表紙の真ん中には、平成2年度 卒業アルバムと書かれている。

「これが見たくて、校長室に入ろうとしてたんでしょ?」

「どうしてそれを?」

「3年C組を開いてみて」

私は言われたとおり、C組の卒業生のページを開いた。クラス全員の顔写真が並んでいた。

左のページに男子、右のページが女子だった。

男子生徒の中に、「大澤哲郎」という名前を見つけた。

中学生のパパがあどけない顔で写っている。お米屋さんの亀田幸一の顔もあった。

あのおじさん、子供の頃はこんな顔だったんだ。

女子の方には、宮元祥子の顔がある。

そして、その隣の顔を見て、私は驚いた。「三村 綾」という名前があった。

「先生、これって……」

「そう。私は、宮元祥子さんの親友だったのよ」

「え! そうだったんですか……」

「ごめんね。もっと早くに話しておけばよかったんだけど、あなたのお父さんがいじめの首謀者だった事が言えなくて。それを言ったら、あなたがどんなにショックを受けるだろうと思ったら、私には言えなかった」

「それであの時……」

「そうなの。このアルバムを絶対に見られてはいけないと思ったの。酷い事をしてごめんなさいね」

あのビンタは、三村先生の愛のムチだったんだ。

絶対にアルバムを見られてはいけないと、私のために。

「先生……。 でも、どうして私たちがアルバムを見たがっている事が分かったんですか?」

「あなた、お父さんに話したでしょ。祥子の日記の事」

そうだった。

ルカからこの話を聞いて、その夜、私はパパにその話をしたんだった。

「あなたのお父さんから、連絡があったのよ。あなたに祥子の事を知られてしまったって、だからあの卒業アルバムだけは見られないようにして欲しいってね」

「それで、私たちを監視してたんですか?」

「監視っていうと大袈裟だけど、実は私、あの日の朝、学校に遅刻してしまったの。それで急いで朝礼に出なきゃって思ってたら、あなたたちを見つけたのよ」

そういう事なんだ。

複雑なパズルのピースが少しずつ繋がってきた気がした。

「こんな事になる前に何とかしたかった。でも、私には何もできなかった。そのせいで、あなたの家族を死なせる事になってしまって、本当に申し訳ないわ。私の力不足よ。本当にごめんなさい」

「先生のせいじゃありません」

「いいえ、私のせいなの」

「え?」

「神取ルカさんに、祥子の日記の話をしたのは私なの」

「ええ! 本当ですか」

「正直言うとね、私も祥子と同じように、あなたのお父さんが憎かったのよ。ごめんね、私の親友を奪った、哲郎さんが憎かった。でもね、何も殺そうと思ってたわけじゃないのよ。少し脅かすだけのつもりだったの。あなたはルカさんと仲良しだから、ルカさんに言えば、あなたに伝わると思ったの。そして、あなたの口から哲郎さんに。

そしたら、ルカさんが消えてしまって、私は怖くなったの。そんなつもりじゃなかったのに、事がどんどん大きくなってしまって」

「そんな…… いたずらのつもりだったなんて。そのせいでルカは死んじゃったんですよ!」

私は三村先生の無責任さに肚が立ってきた。

そして、そのせいで、れいちゃんまで命を落としたのだ。三村先生のちょっとした火遊びのせいで、生徒が2人も死んだのだ。

そして、私の家族も。

「先生、最低です」

「そうよね。返す言葉もないわ」

三村先生は俯いた。

「なぜ、25年も経った今、そんな事を言ったんですか?」

「25年てね、長いようで短いのよ。あなたには分からないかも知れないけど、私と祥子の恨みは、何年経っても、癒えないのよ」

その気持ちはわからないでもない。

娘を失った母親は、何年経っても忘れられないものだ。それと同じ事だと言いたいのだろう。

「それでね、今日は全てを話すつもりで来たから言うわね。私はもう、あなたの前には現れないつもりだから」

私は何も言わずに、三村先生の話に耳を傾けた。

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