Sの日記(ホラー)第七章2

れいちゃん大丈夫かな……?
「すいません、 お隣の宮元医院て、 辞めちゃったんですか?」
れいちゃんはあっけらかんとして聞いた。
中学生の子供だということを、 逆に利用しているみたいだった。
「さあ、 どうでしょうか? 私たちが越して来たのは5年前ですけど、 その時には、 もう誰も住んでいないようでしたけど」
その奥さんは答えた。
「そうですか。 すいませんでした。 ありがとうございました」
れいちゃんはそう言って、 ドアを閉めた。
「そうか、 そういうことか」
その家を出た所で、 れいちゃんは言った。
「なに? どういうこと?」
「つまり、 新しい家に住んでいる人は当時の事を知らないってことよ。 ミコちゃん、 古い家を探そ」
なるほど。
私も納得した。
たくさん家は建っているけど、 昔から住んでいる人は意外に少ないかも知れない。
私たちは、 もう一度、 周辺を見渡した。
「あ、 れいちゃん、 あそこは?」
私は古そうな家を見つけた。
「いいね、 行こ」
その家は、 木造の平屋で、 かなり古そうだ。
地震が来たら、 崩れてしまいそうだ。
その家に行くと、 ちょうど住人が庭に出て、 花に水やりをしていた。
白髪頭のおばあちゃんだった。
うん、 これはいけそうだ。 すかさず声をかけるれいちゃん。
「こんにちわ」
そう言うと、 おばあちゃんはこちらを見て、 不思議そうな顔をした。
私たちのような子供が、 声をかけてきたのが意外だったのかも知れない。
「すいません、 ちょっと聞きたいんですけど」
れいちゃんは今度はいくらか丁重な物言いだった。
「以前、 あそこに宮元医院があったと思うんですけど、 もう辞めちゃったんでしょうか?」
「ああ、 宮元さんね。 ずいぶん前だよ」
おばあちゃんは首を捻った。 これはいける気がする。
「10年ぐらい前かな。 宮元先生、 癌で亡くなったんだよ」
「え、 そうなんですか?」
私は驚いた。
祥子さんのお父さんも亡くなっていたのだ。
10年前というと、 祥子さんの自殺から15年後だ。
そして、 れいちゃんは口を開いた。
「実は、 うちのお祖母ちゃんが昔、 宮元医院にかかっていて、 ぜひまた、 宮元先生に診てもらいたいって言ってるもんですから。 宮元先生には大変お世話になったみたいで」
「ああ、 そうなの。 いい先生だったんだけどね、 娘さんがあんな事になっちゃってから、 落ち込まれてね。 可愛そうに。 宮元先生の奥さんも、 ご主人が亡くなってから、 医院を続けられなくなってね、 あの家を売りに出して、 ご自分は実家へ引っ越したんだよ」
おばあちゃんは当時の事を思い出すように、 悲しみを顔に滲ませた。
「あの……、 その奥さんの引越し先って、 ……わかりませんよね」
れいちゃんが尋ねた。 ダメもとだ。
「わかるよ。 ちょっと待ってね」
え、 わかるの? やった!
聞いてみるもんだ。
おばあちゃんは一度、 家の中に入って、 少ししてから出てきた。
小さなメモ書きを持っている。
「ここだよ。 奥さんが、 もしかしたら訪ねてくる人がいるかも知れないからって、 それをくれたんだよ。 訪ねて来たのは、 あんたたちが初めてだけどね」
おばあちゃんはそう言って、 紙を見せてくれた。
そこには奥さんの名前、 実家の電話番号、 住所が書かれていた。
名前は、白井 順子(しらい じゅんこ)旧姓だ。
「ミコちゃん、 スマホ持ってる?」
「う、 うん、 持ってるよ」
え? いきなりそこへ電話する気?
「じゃ、 これ撮って」
あ、 そういう事か。
そうか、 そのメモを書き写す必要はないのだ。
写真撮影すれば、 コピーしたのと同じことだ。
スマホのカメラ機能って、 こんな事にも使えるのね。
私は小さなバッグから、 スマホを取り出して、 そのメモ書きを撮影した。
ちゃんと撮れたか、 確認してみる。 バッチリOKだ。
「どうも、 ありがとうございました」
私とれいちゃんは、 おばあちゃんに頭を下げて、 お礼を言った。
「さっそく、 次の日曜日、 奥さんの家に行ってみよう」
おばあちゃんの家を後にすると、 開口一番れいちゃんが言った。
「うん、 そうだね。 いきなり行って大丈夫かな。 事前に電話した方がよくない?」
「そんな事したら、 怪しまれて、 すぐ断られるよ。 いきなり行った方がいいよ」
それも一理ある。
れいちゃんの言うとおりにしよう。
奥さんの住所は隣の市だった。 電車に乗れば20分で着く。
祥子さんのお母さんから話を聞ければ、 詳細が掴める。
事件の真相に近づけるに違いない。
日曜日、 朝10時に私たちは駅で待ち合わせた。
いつものようにれいちゃんはすでに到着して、 私を待っていた。
いつも待たせて申し訳ないと思う。
お互いに挨拶をして、 切符を買った。
友達と2人で電車に乗るのは、 なんか新鮮でいい。 ワクワクしてくる。
今日は遊びではないが、 それでもテンションが上がるのは、 私だけだろうか。
電車の中での話は、 祥子さんの事ばかりだった。
「ねえ、 れいちゃん。 あの壁にあった釘の穴って何だと思う?」
私は訊いた。
祥子さんの部屋の壁にあった、 釘を抜いた跡が、 気になっていた。
「たぶん、 あそこに藁人形が打たれていたんだろうね」
「やっぱり、 れいちゃんもそう思う?」
れいちゃんは頷いた。
「で、 どうしてそれを押入れの天井裏に移動したんだろう?」
「そりゃ、 両親に見られたくなかったからでしょ」
「そうだよね。 親に見られたら問い質されるもんね」
「それもあるけど、 学校でいじめられてる事を知られたくなかったんだと思う」
なんだかすごく切ない話だ。
一番身近にいて、 一番可愛がってくれる親に相談できないなんて。
どんなに辛かっただろう。
自分でもやっぱりそうしただろうか?
「その藁人形の相手って、 誰なんだろうね。 やっぱりいじめた生徒かな」
「それしかないでしょ」