Sの日記(ホラー)第七章3

れいちゃんは当たり前のように言った。

20分ほど電車に揺られて、 私たちは白井順子さんが住んでいる最寄の駅に着いた。

祥子さんのお母さんだ。

実家の場所は、 予め地図で確認しておいた。

れいちゃんと2人で、 実際の道と地図とを照らし合わせながら、 歩いていく。

「あった。 あれじゃない?」

れいちゃんが指差した所は、 大きな農家らしい家だった。

駅から歩いて15分ぐらいの小さな集落だった。

田舎の家特有の大きな敷地に建てられ、 生垣で覆われていた。

母屋の横には、 農機具を収納する大きな倉庫がある。 この辺りはのどかな所だ。

道路に立って、 敷地内を伺っていると、 一台の軽自動車が、 そこに乗り入れて停まった。

降りてきたのは、 高齢に見える女性だった。

頭にちらほらと白い物が目立つ。

お化粧もしていないせいか、 少しやつれても見える。

その女性が、 私たちを見つけて、 声をかけてきた。

「はい、 どちら様でしょうか?」

私とれいちゃんは、 お互い顔を見合わせた。

どちらが話す? という視線を、 お互いに向け合った。

「あの、 こんにちわ」

私は何とも、 間の抜けた挨拶をしてしまった。

その女性はとりあえず、 挨拶をしてくれた。

「私たちは、 東台中学校三年生の神野と」

「あ、 大澤といいます」

れいちゃんがハキハキと話し始めた。

私の話し方を見て、 こりゃダメだと思ったに違いない。

ゴメン、 れいちゃん任せるわ。

「こちらは白井さんのお宅でしょうか?」

「……はい」

その女性は返事をした。

こんな子供たちが何の用だろう?

と言いたげな顔つきだった。

「実は私たち、 つい最近、 古い新聞記事で、 祥子さんの自殺の事を知りまして、 トーチュウでそんな事があったんだなって思って、 ね」

れいちゃんが私にふった。

「はい、 いじめられて亡くなったんだと思うと、 すごく可愛そうで……、 何て言うか、 うまく言えないけど、 祥子さんの事忘れてはいけないっていうか……」

「こういう事って、 風化させてはいけないと思うんです」
れいちゃんが助け舟を出してくれた。
「ですから、 いきなり来て、 ご迷惑だと思ったんですけど、 お焼香だけでもさせてもらえないかと思いまして、 何とかお願いできないでしょうか?」
「お願いします」
私たちは頭を下げた。
私たちは予め、 打ち合わせしておいた通りに、 何とか言えた。
「まあ……」
その女性は口に手を当てて、 涙ぐんだ。
「そうだったの。 初めまして、 宮元祥子の母です。 あの子の事を思い出してくれたなんて嬉しいわ。 よく来てくれたわね。 さあ、 どうぞ」
祥子さんのお母さんは、 涙声でそう言ってくれた。
どうぞ、 と言ってくれたことに、 とりあえず胸を撫で下ろした。
玄関を通ると、 すぐに大きな居間に通された。
縁側から外の山々が見える。
街の住宅街に住んでいる私にとっては、 とても新鮮で癒される場所だった。
座卓の前に、 座布団を敷かれて、 私たちは緊張しながら、 祥子さんのお母さんが来るのを待った。
考えてみれば、 「白井さんですか?」と尋ねただけで、 祥子さんの母親かどうかを訊いていなかった。
もしかしたら、 この辺りには「白井」という姓は多いのかも知れない。
ぜんぜん違う「白井」さんに声をかけている可能性もあったのだ。
そうでなくてよかった。
祥子さんのお母さんは、 お茶を二つ淹れて、 居間に戻ってきた。
それを私たちの前に置いてくれた。
「あなたたち、 お家はどこなの?」
そう訊かれて、 私たちは自分の住んでいる町名を答えた。
「そう、 わざわざ祥子のために、 遠くから足を運んでくれて、 ありがとうね」
「いえ」
私とれいちゃんの言葉が重なった。
「あの、 祥子さんは?」
れいちゃんが言う。
「あ、 そうだったわね。 こっちよ」
お母さんはそう言って、 腰を上げた。 私たちはその後についていく。
隣の和室に、 大きな仏壇があり、 そこに祥子さんの遺影が飾られていた。
卒業アルバムを見るまでもなかった。
ここに来れば、 祥子さん写真を見られたのだ。
先にれいちゃんが仏壇の前に座って、 手を合わせた。
いつものように数珠を持っている。
線香を手にとって、 ろうそくに灯された火に近づける。
線香の先から細い煙が上がった。
れいちゃんがそうしている間に、 私は祥子さんの遺影をじっと見た。
なんとなくだが、 私が持っていたイメージと違っていた。
いじめを受けていたというので、 暗い表情の顔を想像していたが、 写真の中の祥子さんは、 可愛らしい笑顔を浮かべていた。
とてもいじめを受けていたようには見えなかった。
どちらかというと、 誰からも愛される人気者のような顔つきだった。
れいちゃんの後に私が焼香を済ませた。
私たちは再び、 居間に戻り、 お母さんと対面した。
「祥子さんが、 亡くなってしまって、 辛かったでしょうね」
私が口を開いた。
お母さんはすぐには答えず、 少し俯いた。
「そうねぇ、 何から話せばいいのかしら。 あの子が亡くなったなんて、 今でも信じられなくてね。 あれから、 時間が止まってしまったみたいで。 一日だって、 祥子を忘れた事なんてありませんよ」
「私、 いじめって本当に赦せなくて、 あんな綺麗な顔をしているのに、 なぜそんな酷い目に遭わなければいけなかったんでしょうか」
私はやりきれない気持ちで言った。
「祥子さんはどんな人だったんですか?」
れいちゃんが尋ねた。
「とっても優しい子だったわ。 大きくなったら、 お父さんのような立派なお医者さんになるんだって言ってたのに……」