Sの日記(ホラー)第七章6

「れいちゃん、 寺崎さんの家って、 判らないかな? お母さんから話を聞けば何か分かるかもよ」

「私も今、 それを考えていたんだけど……」

「また、 パソコンで調べられない? そんな記事があるかも?」

「昨日、 調べた。 その記事、 あるにはあったけど、 詳しい住所までは載ってなかった」

え、 そうなんだ。 やる事が早いのね。 いつも私より、 一歩先を進んでる。

「寺崎さんが、 何で『舌切り雀』を借りたかよりも、 帰ってきたのか、 きてないのかが気にならない?」

「気になる」

れいちゃんの疑問に私も賛同した。

でもそれも、 寺崎さんの自宅が判らなければ、 どうにもならないのだ。

そんな事を考えてるうちに、 れいちゃんとお別れする場所まで来てしまった。

れいちゃんはいつも、 ここから右に曲がる。

私は真っすぐだ。

「じゃあね」

と言う私の声と、 車のクラクションが重なった。

赤い車が、 私たちの横で停まった。

「れい、 今、 帰り?」

運転席の窓から、 綺麗な女性が顔を出して、 れいちゃんに話しかけた。

「ママ、 どうしたの? こんなに早く」

え? ママ?

れいちゃんのお母さん?

「あら、 お友達?」

「そうだよ。 大澤美琴さん」

「こんにちわ」

「こ、 こんにちわ」

お母さんの挨拶に、 私はドギマギしてしまった。

やばい、 やばすぎる。

なんて綺麗なお母さんなの?

まるで宝ジェンヌだ。 オーラを感じる。

このお母さんと、 あの暗かったれいちゃんが結びつかない……。

「ちょうどよかったわ。 ケーキを買ってきたの。 みんなで食べましょ。 さあ、 乗って。 美琴さんも」

れいちゃんが車の後部座席のドアを開けてくれた。

「さあ、 乗って」

れいちゃんの言葉に、 私は逆らうこともできず、 その場の流れで乗ってしまった。

お友達のお母さんの車に乗る事など、 そうあることではない。

家の車と違って、 私は後部座席で借りてきた猫のようになっている。

れいちゃんの家に着いても、 私の緊張はほぐれなかった。

れいちゃんの家には何度か来たことはあるが、 お母さんと一緒は初めてだ。

緊張しっぱなしだ。

居間のソファに座るように言われ、 腰を下ろしたが、 落ち着かない。

いや、 居間というよりリビングだ。

ソファが可愛くて素敵過ぎる。

家具や調度品も輸入家具のようだ。 我が家とはセンスが違う。

これもきっとお母さんのこだわりなのだろう。

うちのママも、 結構可愛いと思っているが、 ズボラだ。

家の中がちらかっていても平気だし、 台所は生理整頓されていない。

まったく無頓着だ。

れいちゃんの家の外見は借家そのものだが、 中に入ったときの豪華さたるや、 このギャップは何なのだ。

今までは、 れいちゃんのお部屋にしか来たことがなかったので、 ぜんぜん気づかなかった。

リビングがこんなに素敵だなんて。

ケーキとジュースがテーブルの上に置かれて、 3人で頬張った。

しばしお母さんを中心に歓談を楽しんだ。

話のネタになったのは、 れいちゃんの事ばかりだった。

「この子、 部屋を暗くして、 本ばかり読んでるでしょ。 ホラーとかオカルトばっかりで、 だから心配してたのよ」

私はれいちゃんを横目でちらりと見た。
やっぱりお母さんも、 そう思っていたのだ。
「でも、 美琴さんみたいな、 こんな素敵なお友達ができて安心したわ。 美琴さんはお勉強お出来になるんでしょ?」
な、 なに? どこをどう見たらそんな風に見えるの?
いきなりハードルを上げないで。
「いえ、 勉強はそんなに……」
私は顔の前で、 手を振って言った。
「あの、 お母さんはどんなお仕事してるんですか?」
「ママね、 ファッションデザイナーなの」
「ええ! すごい」
よ、 横文字の仕事だ。 カッコよすぎる。
うちのママは10時から3時までのパートだ。 一応横文字だ。
「大袈裟よ。 デザインのお仕事をちょっとお手伝いしているだけよ」
それでも凄い。 アパレル業界は私の憧れだ。
「すごいです。 今度、 一緒に洋服選んでもらっていいですか? 私、 そういうのセンスなくて」
「うん、 いいわよ。 じゃ、 今度三人で、 お買い物行こうか」
「はい!」
私は有頂天になって喜んだ。
あ、 いけない。 ルカの事、 すっかり忘れてた。
その後、 ファッション雑誌を中心に会話が弾んだ。
「ちょっと、 れい、 あなたいつまでそんなダサいメガネしてるのよ。 いい加減やめなさい。 もっと可愛いの買ってあげるから」
会話の途中で、 お母さんがれいちゃんに言った。
「いいの、 これで」
「そんなんだから、 お友達ができないのよ。 美琴さんに笑われるわよ」
なんだ、 やっぱりお母さんも、 センスないと思っていたんだ。
このメガネ。
お母さんは苦笑している。
夕方になり、 暗くなったころ、 お母さんは車で、 私の自宅まで送ってくれた。
れいちゃんはあんな感じの女の子だけど、 この母と子はしっかりした絆で結ばれている。
心底れいちゃんの事を可愛がっている。 そんな姿を見た気がした。
しかし、 この後、 そんな美しいお母さんが、 絶望の淵に突き落とされる事になろうとは、 想像もしていなかった。