Sの日記(ホラー)第七章

「今は朝礼の時間でしょ。 こんな所で何をしているの?」

三村先生は無表情で言った。

私の苦手な先生だ。

いや、 私だけではない。

この先生、 美人だが、 生徒間の中では、 すこぶる評判が悪い。

男子生徒からもだ。

学年主任の遠藤先生という怖い男の先生がいるが、 私はこの三村先生の方が苦手だ。

遠藤先生は学生時代に柔道をやっていて、 迫力があり、 生徒からは恐れられているが、 暖かい言葉をかけてくれる事もあるし、 時折、 笑顔を見せてくれる。

この三村先生には、 そんな人間味はない。

いつも冷酷さが滲み出ている。

ジョークも一切言わないし、 生徒に口答えはさせない。

口答えをしようものなら、 頬に張り手を喰らう。

つまり、 一番見つかってはいけない教師に見つかったという事だ。

その三村先生が、 今、 私たちの前に立ちはだかり、 尋問をしているのだ。

もう、 逃げられないし、 言い訳もできない。

「答えなさい! こんな所で何をしていたの?」

遠慮のない三村先生の言い方だ。

もうビンタの一つも覚悟しなければならない。

「あなたたち、 E組の大澤と神野ね」

生徒に対して、 決して「さん」や「くん」を付けないのがこの先生の呼び方だ。

三村先生はA組の副担任で、 英語の先生だ。

私たちもこの先生に教わっている。

当然、 名前も知られているわけだ。

「校長室で、 何をしようとしていたの?」

「あの、 それは……」

れいちゃんが口ごもった。

「違うんです。 私がいけないんです」

私がそう言うと、 三村先生は私を見た。

「どういうこと?」

「私が、 一度、 校長室に入ってみたくて、 校長室ってどうなってるのかな、 って思って」

「それで?」

三村先生に問い質されると、 なぜだか焦ってしまって、 話し方がぎこちなくなってしまう。

「あ、 あの、 今の時間なら、 校長先生もいないから、 チャンスだと思って。 神野さんは、 私を止めに来たんです。 朝礼に出なきゃいけないよ、 って。 だから、 神野さんは関係ないんです。 私1人が悪いんです」

そう言うと、 一瞬、 三村先生は押し黙った。

「下手なウソね。 私にはそうは見えなかったわよ。 先に校長室に入ろうとしていたのは、 神野だったわね」

「あの、 それは、 その……」

「いいよ、 ミコちゃん。 かばってくれなくて」

れいちゃんはそう言って、

「すいませんでした」と三村先生に頭を下げた。

私もすぐに頭を下げた。

「顔をあげなさい」

三村先生は低い声で、 そう言った。

「神野、 メガネを取って」

もう、 完全にビンタだ。

そして、 悪い予感は当たった。

私とれいちゃんは、 続けて頬を殴られた。

バシっと廊下に響き渡る音がした。

この先生は、 女生徒でも容赦しない。

それが今、 改めて実感できた。

「朝礼に出なさい」

ビンタのあとに、 そう言って、 三村先生は去っていった。

私たちは、 慌てて、 グランドに出て、 自分たちのクラスの一番後ろに並んだ。

遅れて、 グランドに出るのは、 ハンパなく恥かしかった。

「れいちゃん、 大丈夫?」

朝礼が終わると、 私はれいちゃんに声をかけた。

「大丈夫よ、 それよりミコちゃんは大丈夫」

「私は大丈夫。 どうやら作戦は失敗ね」

「校長室からのルートは諦めた方がいいかもね」

「アルバムの件は、 一旦、 保留にしよ」

「仕方ないね」

私とれいちゃんは、 さばさばしていた。

その後、 私とれいちゃんは担任の君塚先生にも叱られた。

三村先生が私たちの担任に報告していたのだ。
ビンタでは済ませてくれないようだった。
「担任にまで、 言いつけるなんて酷いと思わない?」
学校からの帰り道で、 私はれいちゃんに愚痴った。
「仕方ないよ。 朝礼サボって、 校長室に侵入しようとしたんだもん。 誰が見たって、 私たちが悪いよ」
れいちゃんはいつでも冷静だ。 私は少しだけ凹んでいた。
「それより、 次の手があるんだけど」
れいちゃんはまた、 目を輝かせて言った。
「次の手? なに?」
「宮元医院の近所の人に話を聞くの。  まだ聞いてなかったでしょ」
「そうか。 でも、 いきなり行って、 教えてくれるかな? 私たち警察でもないのに」
「当たって砕けろよ。 私に任せて」
れいちゃんは自分の胸をポンっと叩いた。
うん、 任せる。
私たちは、 学校から帰って、 一度家に戻り、 夕方、 まだ明るいうちに、 宮元医院の前に集まった。
あんな出来事があったので、 あまり近づきたくはなかったが、 近所の人に話を聞くには、 避けては通れない道だった。
もちろん宮元医院の建物をまともに見る事はできなかった。
私とれいちゃんは、 辺りを見渡して、 どの家から聞き込みを始めるか思案した。
「じゃ、 お隣さんから行こうか」
れいちゃんは言って、 宮元医院の隣の家に、 つかつかと歩き出した。
私はただ、 ついていくだけだった。
門扉を開けて、 玄関へ続くスロープを足早に歩いていく。
門柱にインターホンがあるのに……。
そして、 玄関ドアを開けて、 住人を呼んだ。
「ごめんください」
やるぅ、 れいちゃん。 私にはできない。
よその家に、 こんなに無遠慮に入っていくなんて。
「はーい」
部屋の奥から、 この家の主婦と思える人が返事をして出てきた。