Sの日記(ホラー)第三章2

ルカの部屋に入ると、 私は奇妙な雰囲気を感じた。

気のせいだろうか?

姿は見えないが、 ルカがそこにいるような感覚があった。

壁にはポスターが貼ってある。 ルカが大好きなアイドルのポスターだ。

壁際のベッドはきちんとメイキングされて、 掛け布団はめくれていない。

つまり、 昨夜はそこで寝ていないということだ。

机の上を見たとき、 私は鳥肌が立った。

あの、 『舌切り雀』が、 置いてあった。

昨日、 ルカが学校の図書室で借りたものだ。

私は、 それでも、 それが変貌して、 『Sの日記』に変わったという事は信じられなかった。

「なんなのかしら、 これ……」

その本を手にとって、 じっと見ていると、 お母さんが横から話しかけてきた。

「あの子、 どうしてこんなものを……。 学校から借りてきたみたいだけど」

その本の巻末には、 『東台中学校』の校印が押されている。

それで図書室から借りた物だと分かったのだろう。

どうして今さら、 小学生の、 それも低学年が読むような童話を借りてきたのか?

それは誰でも持つ疑問だ。

「お母さん、 ルカがいなくなった時の事を聞かせて」

私は言った。

「ああ、 朝ごはんの時間になっても、 降りてこなかったから、 どうしたのかな、 と思って、 見に来たのよ。 そしたら、 ここにルカがいなくて。 家中捜したけど、 見つからなくて……。 どこかに出かけたのかと思ったんだけど、 靴もそのままだし、 荷物もあるし……」

「つまり、 ルカの姿だけが、 忽然と消えたってこと?」

お母さんは頷いた。

「ああ……もう、 どこ行っちゃったのかしら、 あの子」

お母さんは、 そう言ってベッドに腰を下ろして、 両手で顔を覆った。

すぐに嗚咽を漏らした。

私はいたたまれなくなって、 あの事を、 お母さんに話そうかと、 喉まで出掛かった。

でも、 思い留まった。

そんな話をしても、 大人は誰も信じない。

子供騙しの迷信だと言われて、 逆に怒らせてしまうに違いないのだ。

「お父さんは?」

私は聞いた。

「ああ、 あの人は会社へ行ったわ。 そのうち帰ってくるだろうって言って。 こんな時に。 私に全部押し付けて。 昔からそうなのよ」

どうやらご主人の事は、 あまりよく思っていないようだった。

私は余計な事を言ってしまったと、 ちょっと後悔した。

「とにかくこの本は、 私が、 学校に返しておくね。 お母さん、 元気出してね。 ルカ、 きっと戻ってくるから」

なんの慰めにもなっていないが、 そう言った。

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