Sの日記(ホラー)第五章2

2人で玄関ホールに立つと、 静寂が包み込んだ。

「なんだか気味悪いね」

私は言った。

静かなのだが、 そこに誰かがいるような、

床や壁が生きているような、 不思議な感じがした。

その時、 ドアが、 バタン!

と閉まった。

2人でビクンと、体を震わせた。

私たちは、 顔を見合わせたが、 気を取り直して、 玄関を上がった。

土足のままだ。

木の床は埃だらけで、 とても靴を脱いでは歩けない。

誰も住んでいないと思うと、 階段さえも不気味に見える。

歩き出すと、 自分の靴音が辺りにこだまするように、 耳に響いた。

1階はリビングやキッチン、 そして診療所へと続くドアがあった。

「なんにもないね」

私がそう言うと、 れいちゃんは頷いて言った。

「引っ越したんだろうね。 お医者さん、 辞めちゃったのかな?」

私もそこまでは分からない。

一つ言える事は、 もうここではやっていないということだ。

「こんな立派な家、 もったいないよね」

さすがにお医者さんだけあって、 内装は素敵だ。

「祥子さんて、 お金持ちの家の子だったんだね」

羨ましいのか、 れいちゃんがそう言った。

私も少し羨ましかった。

「ミコちゃん、 2階に行ってみよう」

1階は何もなさそうだ。

私はれいちゃんの言うことに頷いて、 2人で2階へと続く階段に向かった。

階段は玄関の前にあった。

木でできた階段を足で踏み込むと、 少しだけミシっと音がした。

れいちゃんは先に立って、 上がっていく。

少しも怖さがないように見える。

それどころか、 楽しんでいるようだ。

私はハッキリ言って恐かった。

昼間なので、 照明を点けなくても室内は明るいが、 なんだか無性に体が震えてくる。

恐怖心は否めない。

1人だったら絶対に来られない。

階段を上りきると、 左右に廊下が伸びていた。

いくつか部屋のドアが並んでいる。

れいちゃんは一番近くのドアを開けた。 広い部屋に入ると、 そこも何も無い。

でも、 私は違和感を感じた。

「ねえ、 れいちゃん。 さっきから何か聞こえない?」

れいちゃんは少しだけ、 耳を澄ませる仕草をした。
「ああ、 ラップ音だよ」
「ラップ音?」
「わかりやすく言うと、 原因不明の雑音とでも言うのかな。 霊の仕業という説もあるのよ」
「霊?」
「別に珍しいことじゃないよ。 たとえ霊の仕業としても、 それ自体は悪い事じゃないから」
なんでそんな事、 普通に言えるの?
私は目一杯怖いのに。
「どうしたの? 怖い? 怖いなら帰ってもいいよ。 私はどっちでもいいから」
そう言われると、 帰ろう、と言えないのが、 人間の心理だ。
ルカを助けたくて、 ここまで調査に来ているのだ。
「ううん、 大丈夫」
私は答えた。
「ここは見た感じ、 夫婦の寝室だね」
れいちゃんは冷静に言う。
私はぎこちなく頷いた。
私の口数が妙に減っている。
ミシ! パシ!
ラップ音は続いている。
何だか、 だんだん増えてきているようにも思える。
「私たち、 あまり歓迎されてないようだよ」
辺りを見渡して、 れいちゃんが言った。
「え? どういう意味?」
「怒ってるみたい」
嫌だ、 やめてよ……。
私は逃げ出したくなった。
「ねえ、 れいちゃん、 霊が見えるの?」
その質問に、 れいちゃんは首を振った。
「残念ながら、 私にはそういう能力はないんだ。 でも、 わかる」
なんで見えないのにわかるのだろう? 長年の経験か?
「この部屋には何も無さそうね。 次行こう」
れいちゃんは寝室を出て行く。
もちろん私もついていく。
廊下の突き当たりにも、 ドアがあった。
れいちゃんはそのドアをじっと見つめた。
「なに?」
私はれいちゃんに聞いた。
れいちゃんは無言だ。
「行くわよ、 ミコちゃん」
「……うん」
なんで改めて言うわけ?
何かあるの?
そのドアに近づいていくにつれて、 ますますラップ音が盛んに鳴りだした。
「ねえ、 れいちゃん、 この部屋って、もしかして……」
そう言うと、 れいちゃんは私の顔をじっと見つめて、 頷いた。
今までに見たことの無い、 れいちゃんの眼差しだ。
れいちゃんはドアノブに手をかけた。
ゆっくりと回す。
ガチャ!
ドアを手前に引いた。
中を覗き込む。
「なにか、 ある?」
私は訊いた。
れいちゃんは何も言わない。
足元を確かめるように、 れいちゃんは足を踏み入れた。
私も続く。
部屋の中央まで歩くと、 2人は歩を止めた。
周りを見渡した。
ガランとして何もない。
ミシ! パシ! ミシ!
激しく音が響いた。
「ん? これ何かしら」
「え? なに?」
私の声はすっかり細くなり、 怯えていた。
れいちゃんは壁まで歩いて止まった。
そこにさらに顔を近づける。
「これ」
れいちゃんは壁に小さな穴を見つけた。
私が凝視すると、 直径2,3ミリの穴だった。
「何だと思う?」
れいちゃんが私に訊いた。
「釘でも抜いた……跡じゃない……?」
「そう見えるよね」
「何か……、 変なの?」
れいちゃんが話すと、 いちいち怖い。
だから何なのよ。
もったいぶらずに早く言ってよ。
「私も釘だと思うけど……、 おかしくない?」
「な、 何が?」
「祥子さんて、 私たちと同年ぐらいの女の子だったんだよね。 そんな子が壁に釘なんか打ち込む? 私もそうだけど、 何かを壁に貼りたい時に、 どうする? せいぜい画鋲かセロテープでしょ?」