Sの日記(ホラー)第五章

「これに関してはね、 私ちょっと見覚えがあるんだ」

れいちゃんはそう言って、 再びパソコン画面に戻った。

私は言葉を発せず、 黙ってれいちゃんの行動を見ていた。

「ほら、 この名前」

れいちゃんが指差した所は、 25年前の祥子さん自殺事件の記事だ。

父親の名前が「宮元正也」と書いてある。

「ミヤモト マサヤ? これがどうしたの?」

「私、 この名前、 どこかで見たことがあるのよ。 あ、 ちょっと待ってて」

そう言うと、 れいちゃんは部屋を出て行った。

何かを思い出したようだ。

私は、 仕方なく画面に目を向けて、 もう一度記事を読んでいた。

しばらくして、 れいちゃんは戻ってきた。

「やっぱりそうだ。 お祖母ちゃんが前に通っていたお医者さんなんだけどね」

れいちゃんは興奮したように、 部屋に入ってきて、 小さな紙切れを私に手渡した。

それは診察券だった。

「ほら、 ここ見て」

れいちゃんが指差した所を見ると、 病院名と院長の名前が書いてある。

宮元医院。 院長 宮元正也。

「ああ! ホントだ」

「ね」

「これって相当古いよね」

色が変色していて、かなり以前のものだとわかる。

「そう。 お祖母ちゃんが大事にとっておいたんだけど。 ほら、 昔の人って、 いつまでも物をとっておくじゃない。 お祖母ちゃんもいざという時に、 お医者さんの電話番号が分かるから、 とっておいたんじゃないかな?」

それは納得できる。
私の死んだお祖母ちゃんも、 和菓子屋さんの紙袋なんかを大事に保管して、 とってあった。
溜まりに溜まって、 こんなにたくさんどうするんだろう、 と思っているうちに死んでしまったけど。
でも、 今はその習慣に助けられた。
れいちゃんのお祖母ちゃん、 ナイス!
その診察券には、 ちゃんと住所も書いてある。
私も聞いたことのある町名だ。
これなら地図で簡単に調べられる。
れいちゃんはもう、 パソコンで地図を広げて、 場所を探している。
「ここね」
すぐに見つかった。
その場所を見て、 私も気持ちが高ぶった。
「ここなら分かるよ。 この道通ったことあるもん」
「決まりだね。 いつ行く?」
れいちゃんは言った。
「明日のお昼1時でどう? お昼を食べた後で現地集合しよ」
明日は土曜日で、 学校は休みだ。
「OK」
れいちゃんは元気良く言った。
翌日の午後1時に私は自転車で現地へ向かった。
すでにれいちゃんは、 建物を見上げて待っていた。
「おまたせ。 遅くなってごめん」
私はそう言いながら、 自転車をそこに停めた。
「今はもう、 無くなってるよ」
れいちゃんはそう言った。
無くなっているという事は、 宮元医院は開業していないということだ。
二階建ての白い建物が目に飛び込んできた。
造りを見ると、 診療所兼住居のようだ。
二階部分の壁面には、 看板を取り外したと思われる跡が残っていた。
その部分だけ色が違う。
建物の横には、 車が5台ほど停められる、 申し訳程度の駐車場があり、
その入り口の端から端までチェーンが張られ、 封鎖されている。
その敷地の所々から雑草が顔を出していた。
「中には入れそうもないね」
私は言った。
「せっかく来たんだから、 探検してみよう。 あ、 そうだ、 ミコちゃんこれ持って」
れいちゃんはそう言って、 私に何かを手渡した。
数珠(じゅず)だ。
「念のために、 それを腕に嵌めてて」
「何か意味があるの?」
「お守りよ」
れいちゃんも自分の腕に数珠を嵌めた。
そして、 チェーンを跨いだ。
え? 行くの? と一瞬思ったが、 これも親友ルカのためだし、
何のためにここへ来たのかを考えて、 私もれいちゃんの後に続いて、 チェーンを跨いで中に入った。
誰かに見つかって、 怒られたら、 怒られた時のことだ。
れいちゃんは建物に歩み寄って、 診療所の玄関ドアに手をかけた。
回してみる。
開かない。 やっぱり。
さらに進んで、 建物の裏側に回ってみた。
住居側の玄関と思われるドアがあった。
やっぱり開かない。
予想どおりだ。 2人で溜息をついた。
「ダメそうだね」
れいちゃんはそれには答えず、 建物を見上げた。
「ミコちゃん、 あれ」
れいちゃんが指差した所に、 窓があった。
しかもガラスが三角形に割れている。
空き巣が入った跡だろうか?
でも、 今そんな事は言っていられない。
そこから中へ侵入するしかないのだ。
鍵の辺りに手は届くが、 体を中に入れるには、 少し高さがあった。
「私が入ってみる。 ミコちゃん馬になって」
「え? う、 うん」
れいちゃんはかなり本気だ。
私はれいちゃんの気迫に圧倒された。
その窓の下辺りに、 両手をついて、 四つんばいになった。
れいちゃんの足が、 ずしりと私の背中に乗った。
「大丈夫? ミコちゃん」
「大丈夫よ。 届きそう?」
私の目線では、 れいちゃんの様子がわからない。
カチャっという音の後に、 窓が開く音が、 鈍く聞こえてきた。
背中がふっと軽くなった。
どうやら侵入に成功したみたいだ。
れいちゃんは自分の体を強引に、 窓にこじ入れた。
少ししてから、 玄関のドアが開いた。
ドアの中から、 れいちゃんが顔を出した。
「ミコちゃん、 こっち」
れいちゃんが手招きした。
私は難なく、 中へ入った。