Sの日記(ホラー)第八章2

涙がこぼれて止まらなかった。

れいちゃんごめんなさい……

れいちゃんごめんなさい……

30分ほどしてから、れいちゃんのお母さんが駆け込んできた。

「あ、美琴さん、れいは?」

息を切らしながら、お母さんは言った。

「この中です」

私は集中治療室を指差した。

お母さんはその中に消えた。

すぐにお母さんの悲痛な叫び声が聞こえてきた。

「れい! れい!」

そして、お母さんは号泣した。

私は学校を休んで、れいちゃんの葬儀に参列した。

祭壇の真ん中には、れいちゃんの写真が飾ってある。

写真の中のれいちゃんは微笑んでいた。

祭壇の横では、近親者が悲痛な面持ちで着座していた。

れいちゃんのお母さんは表情を失ったまま、一点を見つめている。

まるで魂の抜け殻のようだった。

目が赤い。

きっと涙が枯れるまで泣きはらしたのだろう。それは私も同じだった。

そんなお母さんの表情を見たとき、改めて自分の罪の重さに気づかされた。

映画になんか、行かなければ良かった……。

れいちゃんは私を守るために、自分を犠牲にしたのだ。

祭壇の前に立ち、焼香をしていると、お祖母ちゃんの視線が突き刺さった。

私を睨んでいる。

そこで私は、はたと気づいた。

もしかしたら、祥子さんの事に関係があるの?

お祖母ちゃんの目は、それを物語っている。

あんたが余計な面倒を持ち込むから、れいは死んだんだ。

手を引けと言ったのに。

そう言いたげな眼差しだった。

私は事態の恐ろしさを感じた。

もしかしたら、祥子さんは私を殺そうとしたの?

あの車は、私に向かって飛んできた。

それをれいちゃんが助けてくれたのだ。

ということは、れいちゃんがいなかったら、私が死んでいた……。

そうなの? 本当にそうなの? 事故は偶然じゃなかったの?

あの事故で亡くなったのは、れいちゃんだけだ。

それが私だけだったという可能性もある。

私の命が狙われている…… 祥子さんに。

でもなぜ? なぜ私が狙われるの?

祥子さんの事を調べたから? だって、それはルカのために……、それが祥子さんの逆鱗に触れたのかな?

れいちゃんの葬儀が終わり、少し落ち着いた頃、私はれいちゃんのお祖母ちゃんの所を訪ねた。

玄関ドアを開けて、私の姿を見つけると、お祖母ちゃんの表情は一変した。

「帰ってちょうだい」

そう言って、お祖母ちゃんはドアを閉めようとした。

私はそれを制した。

「あの、一つだけ教えてください。私は祥子さんに狙われたのでしょうか? あの事故は偶然じゃなかったんですか?」

閉めようとするドアを、手で押さえながら、私は訊いた。

お祖母ちゃんはじっと考えてから、口を開いた。

「今も、あんたの後ろにいるよ。もの凄い形相でね。今回は失敗したけど、必ずあんたの命を奪いに来るよ」

やっぱりそうなんだ。

私は血の気が引いて、倒れそうになった。

「私はどうすればいいんでしょうか? 祥子さんの怒りを鎮める方法はないんですか?」

「あるよ。一つだけね」

「何ですか? 教えてください」

私は必死な思いで、お祖母ちゃんに訴えかけた。

「あんたが、自ら命を絶つことさ」

はっ……。

それは、助かる方法は無いって事じゃない。

全身の力が抜けた。

お祖母ちゃんはドアを閉めた。

私はその場に崩れた。

なんで? なんで私が狙われなければならないの?

祥子さんの事を調べたからって、そこまでされるなんて。

彼女が私を狙う理由はなんなの?

れいちゃんがいなくなった今、私には頼る人間はいない。

自分でやるしかない。

これ以上、誰かを巻き込むわけにもいかない。

お祖母ちゃんの団地を訪ねた後、私は1人、自転車を引いて歩いていた。

足取りは重い。

そうだ! もう一度、あそこに行ってみよう。

宮元医院だ。

あそこには何かが隠されている。

それが、祥子さんが私を狙う本当の理由だ。

私は自転車にまたがって、力いっぱい漕ぎ始めた。

スピードをあげて、宮元医院へ急ぐ。

もうすぐ日が暮れる時間帯だ。

ぐずぐずしていると夜になってしまう。

もっと明るい時間に改めて出直そうか。

そうも思ったが、気が気じゃない。

今日知りたいのだ。

いてもたってもいられない。

私は全力で自転車のペダルを回した。

宮元医院の前に自転車を停めた。

日の暮れた宮元医院の建物はひっそりと息をひそめていた。

もう2度と来たくない場所だと思っていた。

今日は頼りのれいちゃんもいない。

きっと、私の事を止めているだろう。

私は出入り口のチェーンを跨いだ。

勢いをつけるかのように足早に歩いた。

立ち止まったら、恐怖のあまり、逆戻りしてしまいそうだ。

駐車場を歩いて、建物の裏側に回った。

玄関ドアがある。

そのドアの取っ手に手をかけようとした時、

ドアが、ガチャっと開いた。

「はっ!」

入れ、という意味だろうか。

しかし祥子さんに決して歓迎されているわけではない。

私は取っ手に手をかけた。

この中に入ったら、もう生きては帰れないかも知れない。

でも、入らずにはいられなかった。

ドアを開けると、以前と変わりない光景が広がった。

目の前に2階へ続く階段があり、右手にはリビングへと続く廊下がある。

それを見た時、私の全身に鳥肌が立った。

れいちゃん、私を守ってね。

靴を履いたまま、私は玄関を上がった。

階段の手摺に手を置いて、一段一段階段を踏みしめた。

ミシっという音がした。

外は徐々に日が暮れて、部屋の中は暗くなりかけている。

前回来たときよりも、不気味さが増している。

何も聞こえない。

階段を上がる時の音だけだ。

壁にも床にも、別段変わった様子はない。

ゆっくりと2階に上がった。

左右に廊下が伸びている。

左に進んだ突き当りのドアが祥子さんの部屋だ。

私は、そのドアをじっと見つめた。

姿は見えないが、祥子さんがそこに立っているのは間違いない筈だ。

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