Sの日記(ホラー)第八章3

恐ろしい目つきで、私を見ているのかも知れない。

まっすぐに祥子さんの部屋に向かって、歩き出した。

靴を履いているせいで、コト、コトっと音がする。

ドアが少しずつ近づいてくる。

私は生唾を呑み込んだ。

脚も震えている。ドアの前に到達した。

ゆっくりとドアノブに手をかける。

鼓動は最高潮で、心臓が口から飛び出そうだ。

ノブを回して、一気にドアを開けた。

目の前に薄暗い部屋が飛び込んできた。

ガランとして何もない。

でも、妙な違和感を覚えた。

部屋に足を踏み入れた。

部屋の真ん中まで歩いて、その違和感に気づいた。

「あ、あれ?」

私は呟いた。

床にはガラスや板が散乱している筈だった。

私が落とした数珠の玉も。

前回、来たときポルターガイストが起きたのだ。

それなのに、床はきれいに片付いていた。

ガラスの破片も、数珠の玉も、どこにも見当たらない。

壁を見た。

釘を抜いた跡が、今も残っている。

私はそれを自分の指で触れてみた。

そこにも祥子さんの怨念が宿っているようだった。

後ろを振り返ると、押入れの扉が目に映った。

それも開けたままにして、飛び出したのに、今は閉めてある。

私ははっとして、窓ガラスを確かめた。

ガラスが割れた痕跡すら残っていなかった。

「誰か、この部屋に来たの?」

そして、霊感の強い人なら、一番霊気を感じるであろう、押入れの扉を開けてみた。

押入れの中の天井板もきちんと嵌められていた。

私は、前回れいちゃんがそうしたように、自分も台の上に飛び乗った。

天井に手を当てて、上に押す。

板は簡単に持ち上がった。少しだけ横にずらした。

藁人形の足の部分が僅かに覗けた。

前回は、それを見ただけで怖くなり、目を塞いでしまったのだ。

今度はしっかりとそれを、見てみるつもりだった。

勇気を振り絞って、天井板を横にずらす。

藁人形が、まるで生きているように見えた。

それは25年間、そこでじっと私を待っていたかのようでもあった。

祥子さんの怨念の塊だ。

よく目を凝らして見ると、藁人形の胸の部分に白い紙で、何かが書いてあった。

私は押入れの台の上に立ち上がって、それに手を伸ばした。

藁人形を手で掴み、強引に抜き取った。

柱に釘が打ち付けてあり、そこに引っ掛けてあるだけだった。

短冊状の紙には黒いペンで、何かが書かれていた。

暗くてよく見えない。

私は押入れから降りて、自分のスマホを取り出して、照明代わりにした。

白い紙が光の中に浮かび上がった。

「はあっ!」

驚いて、息を呑んだ。

ウソでしょ……。

そこにはしっかりと人の名前が書かれていた。

恐らくいじめの首謀者の名前だ。

その名前は、大澤哲郎。

「パパ……」

ええ? なんでパパの名前が書かれているの?

パパ……。

パパなの? パパが祥子さんをいじめたの? ウソ、ありえない。

パパはそんな人じゃない。

私には凄く優しいパパだし、私はパパが大好きだもん。

そんなパパがいじめの首謀者だったなんて、ウソよ!

祥子さんが、この藁人形を五寸釘で打ち付けている姿が脳裏に浮かんだ。

パパの顔を想像しながら、何度も何度も打ち付けている姿が目に浮かぶ。

父親がそんな事をしていたなんて、信じたくはないが、そこに書かれているのは紛れもない事実だ。

パパは今年40歳。

25年前といったら、

ちょうど15歳、中学三年生だ。

そうか、そうだったのか!

パパと祥子さんは同じクラスだったのだ。

「祥子さん……」

あなたをいじめたのは、私の父だったのね。

それで、私の事をじっと睨みつけていたのね。

あなたは、父の娘である私を殺そうと思っていた。

だから事故の時、車が一直線に私に向かってきたのね。

私を殺すこと。

それが父に対する復讐の一つでもあった。

自殺から25年経っても、祥子さんの心の傷が癒える事はないのだ。

私は藁人形を両手で掴んだ。

「ごめんなさい……」

私の目から涙が落ちた。

「辛かったでしょう、苦しかったでしょう。父の代わりに謝ります。本当にごめんなさい!」

辺りはシーンとしたままだった。

今回は何も起こらなかった。

「父にもしっかりと、あなたの墓前で謝罪してもらいます。だから、ルカと寺崎さんを帰してあげてください。お願いします」

私は床に、額を打ち付けるように何度も土下座をした。

れいちゃんのようにお経をあげることができれば、祥子さんの怒りを鎮める事ができるのかも知れないが、今の私にできるのは、それが精一杯の事だった。

もしかしたら……。

そう思って、私はスマホで、辺りを適当に、何枚か写真撮影してみた。

最後に自分にもレンズを向けて撮った。祥子さんが写っているかも知れない。

撮影した画像を一枚一枚見ていく。

暗い画像が並んでいるだけだった。

そして、最後に自分の画像を見た。

「ギャーーーーーーーーーーーーーーー!」

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