Sの日記(ホラー)第六章2

「1人で耐えて、 誰にも相談できなかったんだよね、 きっと。 お祖母ちゃんは言わなかったけど、 たぶん全部分かってるよ。 この事件の真相がね」

「え? そうなの?」

「それは私たちが知るには、 あまりにもショッキングなことだから、 言えなかったんだよ。 お祖母ちゃんは、 あの画像に映った祥子さんの姿を見て、 読み取ったんだよ、 心の中をね」

「読み取った?」

「まだ続ける? 私はもうやめた方がいいと思うけど」

そう言われて、 私は考えた。

宮元医院での出来事で、 意気消沈したのは確かだ。

おばあちゃんの忠告も心に染みた。

だけど、 ルカの事を思うと、 諦めきれない。

それにルカのお母さんの心情を思うと、 いたたまれないのも事実だ。

それには大きな代償を払うことになるが、 私しかいないのだ。

『Sの日記』の事を知っているのは。

「ねえ、 れいちゃん。 祥子さんて、 どんな顔してたのかな? 写真が見たいんだけど」

「写真か……」

私の唐突な投げかけに、 れいちゃんは意外な顔を見せるわけでもなく、 つぶやいた。

「一つだけ方法があるとすれば、 卒業アルバムね」

「それよ!」

れいちゃんは本当に頭がいい。

「平成2年度の卒業アルバムだと思う」

「でも、 どうやってそれを探すの? 誰がそれを持ってるか知らないし、 その年度の卒業生も知らないし」

いい方法を思いついたと思ったが、 私は少し気落ちした。

「それなら校長室にあるよ。 第一回目の卒業生から、 今年の分まで全部揃ってるよ。 私、 一度だけ、 校長室に入ったことがあるの。 掃除当番でね」

そう言えばそうだった。

トーチュウでは3年生の各クラスが持ち回りで、 校長室の清掃をするんだった。

私たちのE組は先月の第三金曜日が掃除当番だった。

れいちゃんが入ったのはその時だ。

しかし、 校長室の掃除に入るのは、 一週間に一度だ。 次に順番が回ってくるのは、 約1ヶ月後だ。 ちょっと待っていられない。

「それ以外に校長室に入るのは無理だよ」

れいちゃんは言った。

私も同感だ。

「校長先生がいない時には鍵が掛かってるからね。 用心深いんだよ、 うちの校長は」

「そうか、 ダメか……」

やっぱり祥子さんの顔写真を見るのは絶望的だ。

「待って、 もしかすると?」

「なに!」

れいちゃんは名案を思いついたようだ。

いつもれいちゃんに頼りきりだ。

たまには自分で考えろ、 と思いながらも、 私はれいちゃんの考えを聞きたかった。

「月曜日の朝礼の時なら、 いけるかも。 校長先生が朝の挨拶と、 ありがたいお話をしている時に、 こっそり忍び込んで、 見るんだよ」

「でも、 鍵が掛かってるんでしょ?」

「かも知れないけど、 校長先生が朝礼台に立つのなんて、 ほんの5分か10分でしょ。 それぐらいの短い時間なら、 面倒くさくていちいち鍵なんか掛けないかも知れないじゃない」

「そうか! それいけるかも」

「でも、 タイムリミットは短いけどね」

「うん、 わかってる。 校長の話の時間次第だもんね」

もう、 それしかない。 うまくいくかどうかは天に任せよう。

「怒られたら怒られたで、 適当に誤魔化せばいいよ」

れいちゃんはそう言って笑った。

「れいちゃん、 あとは私1人でやるからいいよ。 今までありがとう」

「ええ、 いいの? どうして? 私はお役御免なの?」

れいちゃんは泣きそうな顔をした。

「だって、 れいちゃんを巻き込むわけにいかないもん。 何か怖い事が起こるかも知れないし、 れいちゃんまで消えちゃったら困るしね。 れいちゃん、 いろいろありがとうね」

そう言い残して、 私は家路に着いた。

それから二日が過ぎた。 今日は月曜日だ。

私は、 学校へ行くと、 グランドには出ずに、 朝礼に並ぶ振りをして、

誰にも気づかれない所に身を隠した。

他の生徒たちは、 朝礼のためにグランドへ出て行く。

みるみるうちに校舎内が静かになってきた。

教師たちも皆、 グランドへ出たようだ。

私は頃合を見計らって、 廊下に出て、 窓からグランドを見下ろした。

すでに全校生徒が、 整列していた。

上から、 こんな光景を見るのは初めてだ。

いつもは自分もそこに並んでいるのだ。

朝礼台の脇には、 先生たちも横並びに並んでいる。

校長先生の姿も見えた。

今だ!

私は、 廊下を小走りに急ぎ、 校長室に向かった。

校長室は職員室の隣にある。
誰もいないと分かっていても、 緊張感はMAXだ。
もしも、 他の先生に見つかったら、 こっぴどく叱られる。
辺りに視線を走らせながら、 私は廊下を走った。
角を曲がった所で、 私は思わず立ち止まった。
女生徒が壁にもたれて、 腕を組んで、 立っているのが見えた。
校長室の前だ。
「れいちゃん……」
立っているのは、 れいちゃんだった。
私はれいちゃんに歩み寄った。
「おはよ」
れいちゃんは笑顔で言った。
「何してるの? 早く戻りなよ」
私は小声で言った。
れいちゃんまで見つかったら大変だ。
罰を受けるのは私だけでいい。
「ミコちゃん、 水くさいよ。 私たち、 友達でしょ」
「れいちゃん……」
なんてカッコイイ登場なの?
れいちゃんて、 意外といいとこ取りね。
そう思っていると、 れいちゃんはすでに行動開始している。
「ほら、 時間ないよ」
ボーっと突っ立っている私に、 れいちゃんは言った。
2人で、 校長室の扉の前に立った。
扉の取っ手に手を掛けた時だった。
「あなたたち!」
後ろから声をかけられた。
ヤバイ!
背筋に悪寒が走った。
振り返ると、 女性教師が立っていた。
グレーのスーツを着た、
三村 綾(みむら あや)先生だった。