Sの日記(ホラー)第六章

呼吸が落ち着いたところで、 れいちゃんは立ち上がった。

「立てる?」

れいちゃんはそう言って、 私に手を差し伸べてくれた。

私はその手を掴んで、 なんとか立ち上がった。

「ありがとう。 額の傷、 大丈夫?」

れいちゃんの額からの出血は止まっているようだった。

「あれ? ハンカチ……」

もう一度、 額をハンカチで拭いてあげようと思ったが、 ハンカチは探しても無かった。

きっと慌てて逃げ出すときに、 家の中に忘れてきてしまったのだ。

今から取りに戻る気にはなれない。

ハンカチは諦めた。

「大丈夫よ。 近くにお祖母ちゃんが住んでる団地があるんだ。 そこに行って、 手当てしてもらうわ。 家に帰るより早いから」

れいちゃんは笑いながら、 そう言った。

「ミコちゃんも一緒に来て」

「え、 いいの?」

私はそこで、 れいちゃんと別れて帰るつもりだった。

「今回の事、 お祖母ちゃんにも話を聞いてもらいたいから」

「お祖母ちゃんに? れいちゃんのお祖母ちゃんて、 どういう人?」

「とても霊感が強い人なんだ。 私と違って、 見える人なの」

なるほど。 それで分かった。

れいちゃんはお祖母ちゃん子なんだ。

そのお祖母ちゃんにいろいろと教わったのね。

れいちゃんは宮元医院の建物を、 スマホで2、 3枚撮影した。

お祖母ちゃんの団地は、 5分ほど自転車で走ると、 すぐの所にあった。

その団地の2階だ。

階段を上がって、 インターホンを押すと、 お祖母ちゃんはすぐに出てきた。

「まあ、 れい、 どうしたの? その傷」

れいちゃんの額の傷を見て、 開口一番でお祖母ちゃんは言った。

「うん、 ちょっとね。 あ、 この子、 友達の大澤美琴ちゃん」

私は、 ありきたりの挨拶をお祖母ちゃんと交わした。

部屋に上げてもらい、 私たちは、 今回の事を全てお祖母ちゃんに話して、 聞いてもらった。

私たちの前には、 お茶とお菓子が出されている。

そして、れいちゃんのおでこには、 絆創膏が貼られていた。

今、 そのお祖母ちゃんは、 れいちゃんが撮影したスマホの写真を、 じっと見ている。

お祖母ちゃんの表情が、 次第に険しくなってきた。

スマホを持つ手が、 小刻みに震え出した。

そして、 ゆっくりと顔を上げて、 私たちを睨みつけた。

「あんたたち……」

お祖母ちゃんは肚の底から、 絞り出すような声で言った。

「まさか、 この家に入ったんじゃないだろうね」

そう言われて、 私とれいちゃんは顔を見合わせた。

2人して怒られているみたいだった。

「入ったんだね」

その言葉に、 れいちゃんは頷いた。

「違うんです。 私が強引にれいちゃんを誘ったんです」

お祖母ちゃんは何も言わず、 私を見た。 凄く恐ろしい目だった。

きっと普段はれいちゃんに対して、 とても優しいお祖母ちゃんなのだろう。

そのお祖母ちゃんが今、 私を睨みつけているのだ。

私は背中に汗をかいた。

「いいかい、 もう2度と、 この家には近寄っちゃいけないよ」

お祖母ちゃんは言った。

「お祖母ちゃん、 何か見えるの?」

れいちゃんが言った。

お祖母ちゃんは少し黙り込んだ。

私たちに話していいものか、 どうか迷っているようだった。

「その……祥子さんだと思うよ」

「祥子さんが見えるの?」

途端に私の鼓動が速まる。

「2階の窓に、 祥子さんの姿が見えるんだけど、 あんたたちの事を睨みつけているんだよ」

「ええ?」

「それも、 おぞましい目をしてね」

それを聞いて、 私の背中は汗びっしょりだ。

「ほ、 本当ですか?」

お祖母ちゃんは目を閉じて頷いた。

「この祥子さんという人、 この世に、 凄く恨んでいる人がいるね」

「それが、 誰だか分かりますか?」

お祖母ちゃんは首を振った。

「誰だか分からない。 けど、 いじめを苦に自殺しているんだから、 きっと自分をいじめた相手だと思うよ」

祥子さんをいじめた相手……。

いったい誰だろう。

「あの、 さっき話したルカのことは、 何か分かりませんか?」

「消えた女の子だね。 もう諦めな。 戻っちゃこないよ」

「本当に消えちゃったの? お祖母ちゃん」

「あんたたちは知らない方がいいよ。 もう、 この件からは手を引くんだね。 でないと、 今度こそ、 命は無いよ。 今回の事は、 ただの警告だよ。 額の傷ぐらいじゃ済まないよ」

私は生唾を呑み込んだ。

「まったく無茶な事をする子たちだね。 よく生きて帰ってこられたよ」

お祖母ちゃんはそう言った。

「ねえ、 私、 なんだか祥子さんの事が、 可愛そうに思えてきたよ」

お祖母ちゃんの家からの帰り道、 私はれいちゃんに言った。

「え? 可愛そう?」

「だって、 藁人形まで作ってるんだもん。 相当酷いいじめをされたんだよ。 いつもそれを我慢して、 学校に行ってたんだと思うと、 何だか悲しくなってくるよ」

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