Sの日記(ホラー)第四章

私は、 ルカの家から、 そのまま自宅に帰った。

家には誰もいなかった。

パパとママは仕事だ。

妹の美紗緒は、 もちろん学校だ。

自室に籠もって、 カバンの中から、 『舌切り雀』を取り出した。

表紙には、 スズメと、 優しいお爺さんと、 意地悪なお婆さんが描かれている。

この本が、 本当に『Sの日記』、 つまりショウコの日記に変わるのだろうか?

ルカが消えたところを見ると、 そう考えるしかない。

ルカが、 靴も履かないで、 何も持たずに、 そっと家を出て行くことは、 もっと不可解だ。

そんな理由も解らないし、 なんの意味も無い。

親に対する不満も聞いた事がない。

例えば、 夜中にお腹が空いて、 親に分からないように、 自分の部屋の窓から、 こっそり抜け出して、 コンビニにでも行ったとか?

そして、 その途中に何者かに誘拐されてしまった……とか。

いくらそうだとしても靴ぐらい履くだろう。 そしてお財布も。

ルカは何も持たずにいなくなったのだ。

やっぱり『Sの日記』を読んで消えてしまったの?

1人で考えていても、 拉致があかない。

かといって、 こんなこと誰にも相談できないし……。

クラスの誰かに相談してみようか?

1人では何もできない。

誰に相談するの?

仲のいい友達は何人かいるが、 こんな話をまともに聞いてくれそうな女の子はいない。

言ったところで、 茶化されるに決まっている。 クラスの笑い者になる。

どうしよう…… 誰かいないかな?

あ、 そうだ!

あの子はどうだろう。

こういう話の好きな子だ。

よくホラー小説とか読んでるし、 怖い話を聞かせてくれた事もある。

人見知りする子で、 クラスの子とはつるまない。

いつも1人で本を読んでいる、 影の薄い子で、 ダサいメガネをかけている。

私も、 あまり仲がよくない。

一、 二度喋った事はあるが、 どちらかというと敬遠したい子だ。

神野れい(かみの れい)という女の子だ。

名前からして、 頼りになりそうだ。

あの子なら、 この話を真剣に聞いてくれそうだ。

よし、あの子にしよう。

私は翌日の学校帰り、 早速、 神野さんに声をかけた。

「神野さーん!」

学校の門を出て、 いつものように1人寂しく家路につく、彼女の名前を読んだ。

まったく親しくないので、 れいちゃんとは呼べない。

神野さんは、 立ち止まって振り向いた。

私が声をかけたことに、 少し驚いているようだ。

「ちょっと話があるんだけど」

「私に……?」

あっけにとられたように、 ポカンとして神野さんは言った。

それもそのはずだ。

私どころか、 クラスの誰からも相手にされずに、 学生生活を送っているのだ。

自分に用があるなんて思わないだろう。

「そう。 ちょっと真面目な話なんだ。 2人きりで話したいんだけど、 神野さんの家に行ってもいい?」

いきなりずうずうしいかな、 とも思ったが、 学校からだと神野さんの家の方が近い。

私の家まで来てもらうのも、 逆に申し訳ないと思った。

「え? ……い、 いいけど……」

なんだか煮え切らない言い方だったが、 私は神野さんと一緒に歩き出した。

10分ぐらいで、 神野さんの家に着いた。

ほんとに近い。

「さあ、 あがって」

家に着くと、 なんだか神野さんは明るくなった。

少し笑顔だ。

神野さんは確か母子家庭だった。 家は借家で平屋だ。

母親はまだ仕事から帰っていないようだった。

神野さんは「さあ、 どうぞ」と言って、 自分の部屋に通してくれた。

「ちょっと待っててね。 ジュースでも持ってくる」

「あ、 お構いなく」

と言う間もなく、 神野さんはさっさとキッチンに行ってしまった。

六畳ほどの部屋で、 意外にも? 広い。

だが、 薄暗い。 カーテンが閉められていた。

なんだ、 そうなんだ。

神野さんは出かけるときに、 いつもカーテンを閉めるんだな。

そう思って、 私は気を利かせてカーテンを開けた。

日差しが入ってきて、 部屋の中が明るくなった。

うん、 気持ちいい。

私は自然に部屋中に視線を走らせた。

本棚には本がたくさん詰まっている。

やっぱりホラー小説が圧倒的に多い。

その他にも、 仏教や思想、 「死」「魂」などをキーワードにした物、 妖怪なんかの本もある。

DVDも全てそちら系だ。

「すごい…… マニアね」

私が感心していると、 神野さんがドアを開けて、 トレイにオレンジジュースを乗せて入ってきた。

「あ、 ちょっと何してるの!」

神野さんはいきなり表情を変えた。

トレイを机の上に置いて、 急いでカーテンを閉めた。

「え?」

私は絶句した。

なに?

神野さんがカーテンを閉めると、 再び部屋が薄暗くなった。

「霊が嫌がるでしょ」

「は? れい?」

「この部屋にはたくさんの霊がいるの。 部屋を暗くした方が、 霊たちも落ち着くし、 私も落ち着くの」

「あ、 そ、 そうなんだ。 ごめんごめん」

私は微妙な笑みを浮かべて言った。

「大澤さん、 ちょっと待ってね。 すぐ済むから」

「うん」

神野さんはそう言うと、 線香に火をつけて、 それを線香立てに立てた。

細い煙が線香から立ち上る。

そして、 おもむろに輪(りん)を鳴らす。

チーン。

神野さんは両手を合わせて、 何かぼそぼそ言っている。

え? なにこれ? っていうか、 お参りするならお仏壇でいいじゃん。

自分の部屋にお焼香セットを完備しているなんて徹底している。

ホラー好きとは思ったけど、 ここまでとは……。

「おまたせ」

神野さんはお参りを終えて、 こちらを振り向いた。

「これをやらないと、 ご先祖様が気分を悪くされるから。 学校から帰ったときの報告と、 今日一日守って頂いた御礼を言わないとね」

「はあ……、 そうなんだ」

「大澤さん、 ちゃんと毎日お仏壇に手を合わせてる?」

その言葉に、 私は首を振った。

「ダメよ、 やらないと。 ご先祖様に守られているんだからね」

「そ、 そうだよね。 私もちゃんとやらなきゃ」

私は、曖昧に笑った。

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