Sの日記(ホラー)第四章3

神野さんはポツリと言った。

「わかるの?」

「だいたいの事はね。 大澤さん、 悪い事は言わない。 この件から手を引いたほうがいいよ。 なんか嫌な予感がするよ」

「どういうこと?」

「簡単に言うと、 災いが起こるよ」

「災い? でも、 それじゃルカはどうなるの? 消えちゃったまま?  そんなの可愛そうだよ。 ルカは私の親友なんだよ」

私は神野さんの肩をゆすって、 訴えるように言った。

「気持ちは分かるけど、 ルカさんの事は諦めた方がいい。 でないと、 大澤さんまで、 とんでもないことになるよ」

「…………」

「私たちに出来る事は何もないよ。 この祥子さんという人は、まだ成仏できていないんだね」

「そうかも知れないけど、 このまま誰も関わらなくなったら、 ルカが可愛そうだよ。 誰かが助けてあげないと」

神野さんは押し黙った。

「わかった。 やれるだけの事はやってみよう。 ルカさんの事は私も嫌いじゃなかったし、 それに……」

「それに?」

「大澤さんが、 私を頼ってくれた事も嬉しかったし」

そう言って、 照れくさそうに神野さんは笑った。

私は胸がいっぱいになった。

「決まってるじゃん、 友達だもん」

「友達? 私も大澤さんの友達なの?」

「だって、 クラスメイトじゃん」

「ホントにそう思ってくれるの? 大澤さん」

「その大澤さんっていうの、 やめてくれる? ミコでいいよ。 私もれいちゃんて呼ぶから」

「うん」

れいちゃんは嬉しそうに涙ぐんだ。

友達だと言ったぐらいで、 感動されると私も恐縮してしまう。

「で? 何から始める? れいちゃん」

傍にあったティッシュの箱をれいちゃんに渡して、 私は言った。

れいちゃんはティッシュを1枚取って、 涙を拭いた。

「そうだね。 私もこういう事は初めてだから、 まず、 この事件に関して分からない事や、 疑問に思うことを書き出していこう」

「うん、 わかった」

そう言って、 私は腕を組んだ。

いざ疑問を、 と言われると、なかなか出てこない。

「そうだ。 この祥子さんはどこに住んでいたんだろう? その家って、今もあるのかな?」

私は思いついた事を言った。

「うん、 そこへ行けば何か分かるかもね。 近所の人の話も訊けるし」

れいちゃんはそう言いながら、 私が言った事をノートに書きとめた。

「れいちゃん、 何かある?」

「私はちょっと気になった事があるんだけど、 どうして『舌切り雀』だったんだろ。 童話なら他にもあるじゃない。 金太郎とか桃太郎とか。 『舌切り雀』だったことに何か意味があるのかな?」

「ストーリーにいじめが絡んでるからかな? ほら、 意地悪なお婆さんがスズメの舌を切っちゃったでしょ。 あれがいじめと言えばいじめじゃない?」

「それだったら、 浦島太郎でしょ。 子供たちが亀をいじめてたんだから」

「そうか……。 そう言えばそうよね。 なんでかな?」

れいちゃんはそれもノートに書いている。

なんだか私たち探偵のようだ。

いや、 捜査会議っぽい。

「あと、 ミコちゃん、 これも気にならない?」

「なに?」

「5年前にルカちゃんと同じように、 消えちゃった女の子がいたって言ってたでしょ。 その子は今どうしてるんだろう。 今も消えたままなのかな?」

「そうだね。 気になるね。 それにルカの時と同じ状況だったのかも。 身内に話を訊けるといいね」

「そもそもルカさんは、 どうやってこの事件の事を知ったんだろう。 誰に聞いたのかな?」

それを言われて、 私もハっとした。

言われてみればそうだ。

祥子さんの事件は25年前の話だ。

ほとんどの人は忘れている。

知っている大人たちも、 この事件の事は封印して、 口を閉ざしているのだ。

そんな状況の中で、 ルカは、どうやってこの事件の事を知ったのだろう。

私は、 ルカから『Sの日記』の話を聞いてから、

今の今まで全く疑問に思わなかった。

れいちゃん凄い!

やっぱりれいちゃんに相談してよかった。

「今のところ、 こんな感じかな」

れいちゃんはそう言って、 ノートを私に見せてくれた。

捜査会議?

で出された疑問が箇条書きで書かれている。

・祥子さんが住んでいた家。 それが今もあるのか?

・どうして『舌切り雀』だったのか? 何か意味があるのか?

・5年前に消えた女の子の今。 ルカちゃんと同じ状況で消えたのか?

・ルカちゃんは誰からこの事件の事を聞いたのか?

そうだ。 こうしてみると分かりやすい。

それにしても、 れいちゃんの文字は達筆だ。

私の汚い字が恥かしい。

次ページ